LOGIN陽菜から届いた。
『ごめん。今日は一人でいたい』
というメッセージを見て。
俺は。
少し固まった。
夏休みに入って。
陽菜は。
ずっと忙しい。
部活。
友達。
家族。
そこは。
もう理解したつもりだった。
でも。
今日。
完全オフ。
予定なし。
なのに。
会わない。
「……」
スマートフォンを見る。
返信。
何を書く。
『分かった』
<第67話 恋人にも、一人でいたい日はある 陽菜から届いた。『ごめん。今日は一人でいたい』 というメッセージを見て。 俺は。 少し固まった。 夏休みに入って。 陽菜は。 ずっと忙しい。 部活。 友達。 家族。 そこは。 もう理解したつもりだった。 でも。 今日。 完全オフ。 予定なし。 なのに。 会わない。「……」 スマートフォンを見る。 返信。 何を書く。『分かった』 だけでいい。 多分。 でも。 指が止まる。 分かった。 本当に? 頭では。 分かる。 疲れている。 一人でいたい。 それだけ。 でも。 感情。 少し。 違う。『俺には会いたくない?』 打つ。 見る。 かなり嫌な聞き方。 消す。『何かあった?』 これも。 今一人でいたいと言っている相手へ。 説明を要求してる感じ。 消す。 最終的に。『分かった。ゆっくり休んで』
第66話 夏休み、毎日会えると思ってたのは俺だけでした 夏休みに入れば、今より陽菜と会えると思っていた。 今振り返れば、かなり単純な発想だったと思う。 授業がなくなる。講義の時間割に縛られなくなる。昼休みが何時から何時までと決まっているわけでもない。だったら、今までより自由な時間が増える。 自由な時間が増えれば、恋人と会える。 俺の頭の中では、そこがほとんど自動的につながっていた。 だから、前期最後の講義が終わった日、俺はかなり軽い気持ちで陽菜に聞いた。「夏休み、いつ空いてる?」 学生ホールの端。陽菜は冷たいカフェオレを飲みながら、スマートフォンの予定表を開いた。「待って。今見る」「結構予定ある?」「結構というか、かなり」「そんなに?」「まず陸上」「それは分かってる」「強化練習が週四か五。来月は合宿もある。それから大会前は増えるかも」「うん」「あと高校の友達と一回会う約束してる」「うん」「千紗とも出かける」「水野と?」「前から約束してた。買い物」「それから?」「家族でお墓参り。おばあちゃんの家にも行くと思う。あと従姉妹がこっち来るから、その日は多分家族でご飯」「……」「それで」「まだある?」 陽菜が顔を上げた。「何、その顔」「別に」「絶対別にじゃない」「続けて」「悠真」「いいから」 陽菜は少しだけ怪訝そうな顔をしたが、予定
第65話 嫉妬したって言われたら、少し嬉しいのは性格悪い? 翌日の昼休み、陽菜は珍しく俺より先に中庭のベンチへ座っていた。 俺を見つけると手を上げたものの、いつものように「遅い」とか「お腹空いた」とか言うわけでもなく、どこか考え込んだような顔でペットボトルのラベルを指先で剥がしている。「何かあった?」 俺が隣へ座りながら聞くと、陽菜は少し迷ってから俺を見た。「昨日のこと、ちょっと考えてた」「ジャージ?」「それもだけど、悠真が嫉妬したって言った時の私」 その言い方で、だいたい何の話か分かった。「嬉しいって言ってたやつ?」「うん。昨日は普通に言っちゃったけど、家帰ってから考えたら、私って性格悪いのかなって思って」「何でそうなる」「だって、悠真は嫌な気持ちになったわけでしょ。知らない男の匂いだと思って、勝手に想像して、ちょっと嫌だったって言ってたじゃん」「うん」「それ聞いて私、ちょっと嬉しかったんだよ。好きだから嫉妬したんだって思って。それって、人が嫌がってるのを喜んでるみたいじゃない?」 かなり真面目だった。 昨日は笑いながら「ちょっと嬉しい」と言っていたが、どうやらそのあと一人で引っかかったらしい。「そこまで悪く考えなくていいんじゃない」「でも、逆だったらどう?」「逆?」「私が白石先輩に嫉妬して、かなり嫌な気持ちになってる時に、悠真が『嫉妬されるの嬉しい』って笑ったら」 少し想像する。「多分、腹立つ」「でしょ」「でも状況による」「どういう状況?」「陽菜が本気で苦しんでるのに、俺が面白がってたら嫌だと思う。でも、嫉妬したって聞いて『俺のこと好
第64話 知らない男の柔軟剤を、彼女から感じた 翌日の夕方、大学を出たところで雨が降り始めた。 最初は細かい雨だった。 傘を出すほどでもないと思って歩いていたら、五分もしないうちに粒が大きくなり、駅へ着く頃には完全な夕立になっていた。夏らしいと言えば夏らしいが、降られる側からすると季節感より迷惑のほうが大きい。 俺は駅前の屋根の下へ逃げ込み、スマートフォンを確認した。 陽菜からは、一時間ほど前に連絡が来ている。『今日も練習。たぶん雨来るから、終わる時間ちょっと読めない』 十五分だけ会った昨日とは違い、今日は会う約束をしていなかった。 それでも、俺は少しだけ期待していた。 練習が早く終わったら、帰りに会えるかもしれない。 前なら、そう思っても何も言わなかった。 今は一応。『終わって時間あったら少し会いたい。無理ならそのまま帰っていい』 と送ってある。 陽菜からは。『私も。終わったら連絡する』 と返ってきていた。 会いたいと伝える。 会えるかどうかは向こうが決める。 最近の俺たちが覚えた、一応のやり方だった。 雨脚がさらに強くなる。 陸上部。 どうしているだろう。 屋外練習なら中止か、途中で切り上げているかもしれない。 そう考えていたところで、スマートフォンが震えた。『終わった。今から駅行く!』 続けて。『めちゃくちゃ濡れた』 俺は。『駅で待ってる』 と返した。 十分ほどして。 陽菜が来た。
第63話 忙しい彼女に、十五分だけ会いに行く 土曜日の午後、陽菜から届いたメッセージは、予定よりずっと遅かった。『練習、ほんとに長引いた。今終わった』 その下に続けて、『ごめん。駅着いてから十五分くらいしか会えないと思う』 俺は少しだけ考えてから、前の日に決めた通りに返した。『十五分でも会いたい』 送信。 今度は消さなかった。 数分後、陽菜からすぐ返ってくる。『私も』 その二文字だけで、思ったより満足した。 大学近くの駅前へ着いたのは、約束より少し早い時間だった。俺は改札の外で待ちながら、何となく時計を見る。 十五分。 普通なら、会う時間としてはかなり短い。 食事へ行くには足りない。映画なんて当然無理。買い物をするにも中途半端だし、どこかへ移動したら、その移動だけで終わる。 わざわざ会うほどなのかと聞かれたら、少し前の俺なら迷ったかもしれない。 でも今は、そういう問題ではなかった。 会いたい。 だから来た。 それだけで十分だった。「悠真!」 声がして、顔を上げる。 陽菜が改札を抜けてきた。 練習帰りらしく、大きなスポーツバッグを肩へ掛け、髪は少し乱れている。着替えてはいるが、頬はまだ少し赤く、首元には運動後らしい熱が残っていた。「ごめん、ほんとに遅くなった」「謝らなくていい」「でも悠真、結構待った?」「十分くらい」「それは待ってるじゃん」「早く来た俺が悪い」「何で早く来たの」「遅れたくなかったから
第62話 会いたいって言うのは、束縛になりますか 陽菜に「会いたい時は言って」と言われた翌日から、俺は逆に何も言えなくなった。 理由は簡単だった。 言っていいと分かった途端、どこまで言っていいのかが分からなくなった。 朝、陽菜から「今日は授業のあと練習」とメッセージが来た時、本当は少し会いたいと思った。でも練習があるなら無理だろうと、そのまま「了解」とだけ返した。 次の日は、昼休みにたまたま時間が合わなかった。午後の講義が終わってからなら十五分くらい会えそうだったが、陽菜はそのまま部活へ行くはずだったので、やはり何も言わなかった。 三日目。『今日、練習たぶん早く終わる!』 陽菜から届いた。 前に言っていた木曜日。 会えるかもしれない日だ。 俺はすぐ、『終わったら連絡して』 と返した。 それだけ。 本当は。『会いたい』 まで打った。 でも消した。 自分でも面倒だと思う。 前は、会いたいと言わないことを指摘された。 今度は、言うことが怖い。「香坂、お前最近メッセージ打って消すの好きだな」 隣から蒼に言われた。 講義が終わった直後だった。「見てた?」「見える位置で三回くらい消してれば嫌でも気づく」「別に」「またそれ?」「今回は本当に大したことじゃない」「じゃあ何打った」「会いたい」「で、消した?」「うん」 蒼は呆れたように俺を見る。